#ボードゲームたのしいね

全作オススメ! 遊んで楽しかったボードゲームのことを、ボードゲーム作家が2人がかりで書き綴るご機嫌なブログです☺

【特集】『細部の違いで印象が大きく変わるゲームデザイン』Board Game Design Advent Calendar 2018 - DAY1

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本記事は
I was game のカレーさんが毎年行なっている
『ボードゲームデザインアドベントカレンダー』の
12月1日分として執筆、投稿しているものです。

Board Game Design Advent Calendar 2018 - Adventar

今回は、
「些細な違いがゲームの印象を決める」
というお話をしようと思います

ゲームの印象が違うとはつまり、
どういうことでしょうか?

 

目次

 

 

勝ち負けが逆転するデザイン

「黒ひげ危機一発」

超飛びジャンボ黒ひげ危機一発

ここに「黒ひげ危機一発」という
有名なゲームがあります

このゲームは
「勝ち負けが逆転するゲーム」の
代表と言えるでしょう

このゲームは発売当初、
自分の剣を突き刺したとき、
「黒ひげ」が飛び出した人が勝ち!
というルールで販売されていたそうです

しかし現在では、
黒ひげが飛び出したら負け!
という遊び方が一般的になっています

もし手元にこのゲームをお持ちの方は、
機会があれば実際に遊んで比べて頂きたい!

些細な違いかも知れませんが
ゲームの印象が
大きく異なったものになります

仲間内の1人が勝つのと
仲間内の1人が負けるのとでは
感情の揺らぎが全然違うんです

極端に言えば、
1人で勝ってしまうと
他の全員が負けになります
勝ったのに、大きな反感を買って
損をすることすらあるかも知れません

逆に1人で負けるという状況なら
他全員は勝ちの優越感に浸れるわけですし
対等ならいがみ合いも起こりませんよね

 

具体的に数値化してみましょう

黒ひげ危機一発を
4人で遊ぶと仮定します

複数回遊ぶとして、
勝った人には負けた人と
同じだけの点数が入ることにします

飛び出したら勝ちルールでは
3人が敗北するため
勝った人にのみ3点が入ります

飛び出したら負けルールでは
1人が敗北するため
勝った人たちはそれぞれ1点ずつ入ります

勝った人と負けた人の差が
前者では3点も開くのに対して
後者では1点のみに抑えられます

ね?

同じ一回でも、
結果が大きく異なりました

…すこし強引ですか?

 

情報を別の形で示すデザイン

「ドミニオン」と「エルドラド」

ボードゲームでは
既に普及している作品から
派生したと解釈できる
タイトルも多くあります

最近の例で面白い違いを感じたのは
「ドミニオン」「エルドラド」です

ドミニオン:第二版 日本語版

「ドミニオン」は、
自分のデッキを豊かな王国にすることを
目指して遊ぶカードゲームです

各プレイヤーが手元に持っている
デッキと呼ばれる山札のなかに
「領地」や「収入」
「雇った人たち」や「建物」などが
ゲームの進行とともに含まれていきます

エルドラド

「エルドラド」も、
デッキを作っていくという
共通点があります

ただし「ドミニオン」とは違い
デッキにあって
邪魔になるカードがありません

さらには、
得点源となるカードもありません

なぜなら「ドミニオン」における
領地=得点源の構造は、
「エルドラド」では
すごろくの盤面で表されているからです

そのため「ドミニオン」
遊ぶときのように

「だいたい今何点取っているな」といった
計算は必要がありません

すごろくの盤面を観れば
誰が勝っているかはすぐ分かるからです

このようなビジュアルが
与える影響は大きく

カードの動きを覚えながら
常に頭の中で相手の得点との差を
計算しつづける必要がある
「ドミニオン」に対して

「エルドラド」では
マス目の数を数えるだけで済みます

おかげで「エルドラド」では、
目の前の戦況に集中しやすく

得点以外に相手ができる
選択肢を掴むことや
自分の考えをまとめる
余裕すら生まれやすい

勝利に十分な得点を稼ぐのか、
ゴールに早くたどり着くか

マス目の数=得点と考えれば
やっていることはほとんど同じ

その結果、プレイの手応え、
そして遊んだときの印象は
「ドミニオン」「エルドラド」
大きく異なるものになっています

 

得点計算だけが異なるデザイン

「デモクラシー」「フラッシュ」「テレパシー」

これから紹介する3つの紙ペンゲームは
どれも基本的なルールの
フレームは全く同じなのに

得点方式の違いで印象が大きく変わる
ゲームがあります

そのフレームはこんな感じです

①特定のテーマが発表される

②テーマについて思いついた事を紙に書く

③全員が発表し、同じ事を書いた人が
 他にもいれば得点する

以上のようなフレームは同じままで、
これから挙げる3つのゲームでは、
最後の得点を得る方法が異なります

 

1つめのゲーム、
「デモクラシー」では、
同じテーマで思い浮かべた事柄のうち
最多票を集めた事柄のみが得点できます

例えばAという答えが5票、
Bが1票、Cが3票、
そしてDが7票だったとしたら
最多の「D」と書いていた
人たちだけが1点を得ます

 

2つめの「フラッシュ」では、
同じことを紙に書いた
人数分の点数が入ります

例えば、10人が思い浮かべていたら10点ですし、
得票数に関わらず別の事柄についても、
それぞれ点数が入ります

ただし、たった1人だった場合は0点です
点数を得るには、少なくとも2人の票が
必要だということです

 

そして3つめの
「テレパシー」というゲームでは
事柄についてたった2人だけが
同じことを思い浮かべて書いたときにのみ
点数を得られます

3人でも1人でもいけません

同じ答えの独立したペアが
できた人だけが得点します

 

得点計算が違えば、回答者の考え方が変わる

これらの3つのゲームは
やること自体にほとんど
差がないにも関わらず

遊んだ人が感じる印象だけは
大きく異なるものになります

なぜなら勝つために
「どうやったら得点を取れるか」
が違うからです

「デモクラシー」は名前の通り、
多数派に多数派に
考えを寄せていくことで
得点を獲得しやすいゲーム

「フラッシュ」でも
多数派に寄せていければベストですが
より広い視野でわかる事柄や
特定の人だけがわかりそうな事柄を
思い付くことによっても
得点を得やすくなります

「テレパシー」は他の2つとは違い
マイナーだけど誰かひとりくらい
思い浮かべてくれる人もいそう…という
さじ加減で答えを思いつく必要があります

 

得点計算が違えば、出題するテーマの考え方も変わる

これら3つのゲームでは、
回答する場合だけでなく出題する場合にも
適したテーマの考え方というのが
異なってくることが想像できるでしょう

 

例えば多数派だけが
得点できる「デモクラシー」において
「戦隊モノといえば何色?」
というお題を出すのは
あまりふさわしくありません

だってほとんどの人が
レッドを思い浮かべるでしょう

でも
「ボードゲームのプレイヤーカラーは?」
というお題だったら、、、
ちょっと考えませんか?

赤なのか?
青なのか?
はたまた…?

 

同じ答えを書いた人がいないと
得点できない「フラッシュ」
「アグリコラの好きな進歩は?」
という質問はやや難しいでしょう

回答者が全員ボードゲーマーで
それなりにアグリコラの経験者である
という場でしか答えようがありません

知っている人が多い題材で
かつ答えがある程度割れそうなもの
「鍋の具材といえば?」や
「動物園にいるのは?」などが
適しています

たくさん出てくるけれど
「きっとこういうのがあるよな!」とか
「あ、それも思いついてた」という
パターンがいくつもありそうな
質問が活きるのが「フラッシュ」です

 

しかし「テレパシー」なら
回答の範囲がとても広いお題でも大丈夫
自分の他に誰か一人だけ
同じ答えがいるのがいいんですから

例えば「J-popシンガーと言えば?」や
「行ってみたい国といえば?」
といった質問がよいですね

当然たくさんの人が
答えそうなものは除外して
回答するでしょうし

誰かと2人だけで回答できると
嬉しいと思えるような事柄で
得点できたらなお嬉しいですよね

 

プレイヤーは何を遊んでいるのか?

これらの3つのゲームを比べて分かることは
「得点計算の"部分"と言っているが、
実はそれこそがゲームの"根幹"ではないか」
ということです

そのゲームで何をするのが楽しいか?を
決めている最たるものが
これら3つのゲームにおいては
得点計算なのだ、ということです

この考えに基づくと…?

例えば、すでに紹介している
「フラッシュ」には、
バリエーションとして
別の遊び方もあります

特定の誰かを代表として、
その代表者の回答だけを
正解とする方式がそれです

だからその人が回答しなかったものは
どんなにたくさんの他の人が
思い浮かべていたとしても
得点にはなりません!

ここで疑問が浮かびますね

得点計算の部分が異なるのに、
そのゲームはまだ「フラッシュ」
呼ばれるべきなのでしょうか?

そのゲームのプレイヤー、
つまり代表者以外のプレイヤーは
代表者の人をよく見て
どんなことを考えるかを
推察するゲームに変わっていますよね

その代表者のことを
よく知っている人場合は
手がかりがすこしは
増えるのかも知れませんが

遊ぶ相手が
初対面だったらどうでしょう?

年齢や性別から判断するとか
服装や話し方に注目するかも知れません

可能であれば、
すこし質問してみて
探りを入れてみるのも面白いでしょう

いずれにしても
そのバリエーションを採用したとき
そのゲームの根幹は
「代表者がなんでそれを思い浮かべたの?」
といった理由を考えたり、
本人に説明してもらうような部分に
なっているように思います

 

まとめ:ゲームデザインの「印象」と「オリジナル」

長々と書きましたが
まとめとしてお伝えしたいことは

別々のゲームと思っている作品も、
解釈によってほとんど同じに見えてしまう

のだし、

似ているルールに見えたとしても、
遊んだ印象が異なるならば、

それは別のゲームとして扱われてよいのだ

ということです

 

ワークショップたのしいね!

さて、最後にちょっとおもしろい
エクササイズを提案します

ぜひやってみて欲しい

ハゲタカのえじき (Hol's der Geier) 日本語版 カードゲーム

バッティングゲームとして有名な
「ハゲタカのえじき」という作品があります

とても面白いゲームで
もはや定番で古典的

だからゲーマーの方は
もう飽きちゃってるかな?

そこでこのゲームを
すこしだけ変えることで
「どのタイミングで面白くなくなるか?」
という遊びを実験してみませんか

 

例えば

①15枚ある得点カードから
最初に1枚秘密裏に抜いておく

たぶんまだまだ面白いと思います

でもこれを
もっとエスカレートして

②抜く枚数が5枚だったらどうでしょう?

③マイナス点のカードだけを抜いたら?

 

もちろん得点札だけいじるのではなく

④他の人と手札の構成が違ったら?

⑤バッティング時の手札が
 各自の手元に戻ってくるとしたら?

⑥誰か1人だけが得点札を
 確認して手札を表で出し、

 他の人はその人の手札を見てから
 自分の手札を出すルールに変えたら?

などなど

 

思いついたものを
書き出しながらひとつずつ試せば
何が違うのかがわかりやすいです

さて、どの時点で、
あるいはどれを採用したときに、
面白いと感じなくなったでしょうか?

 

そしてこのエクササイズを
繰り返しているうちに

「ハゲタカのえじき」とは
まったく違う印象が味わえたら

それはもはや、
新しいゲームなのかもしれませんね!

 

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この記事を書いたのは、
ハゲタカのえじき大好き!まこと