『東京アルティメット賃貸』は、2018年の秋にゲームマーケットというイベントで発表、販売した自作ボードゲームです。
大変ありがたいことに好評を頂きまして、年内には完売。最近すこしだけ再生産させて頂いた分を委託に回しました。
この販売再開の機会に、このゲームができるまでの話を書いたので、ゲームと合わせて楽しんでいただけたら幸いです!
【目次】
動機
そもそも本作は、「第一回ボードゲームグランプリ」というコンペに応募したときの落選作でした。
たしか2018年の春くらいだったと思いますが、賞金20万円+賞品化!みたいなコンテストの告知がありまして、狭い界隈のことですからすこし話題になり、私も興味を持ちました。
コンテストのテーマは「住」。大抵のゲームシステムならモチーフとして取り入れられそうな、懐の広いテーマだなあと思いました。
着想
とはいえ何でも良いというわけにもいきませんね。まずは手がかりをもとめ、コンペの審査にも参加するというスポンサーさんのことを調べました。調べるといっても、とりあえず社名でググる。
出てきたホームページは、不動産情報の総合サイト。物件掲載数ナンバーワンとあって、賃貸、マンションや戸建て、中古を含む売買など、まあそういった業務なのだなあと思いました。身近なのは、「賃貸物件」かなあ。
「応募だけでもしてみようかな、なにか思いついたら」みたいな気持ちでしばらく過ごし、果たしていくつかネタを思いつきました。さらに2~3個くらいに形になりそうなものを、なんとなく形を整え、機会があったときにテストプレイすることにしました。
参考にしたゲーム『チームプレー』
結局テストできたのは2つくらいだったと思いますが、その中でもどうにかまとめるだけならまとまりそうなものがあったので、応募に間に合うように形にしました。
これが「東京アルティメット賃貸」の原型、『ちんパラ!』というゲームです。当時、自分のなかで流行っていた『チームプレー』というゲームに多大な影響を受けた内容でした。
「チームプレー」は、色と数字のカードを手札としてやりくりしながら、場札である勝利点カードの条件を満たして、手札と引き換えに取得していくというもの。「チームプレイ」の名の通り、味方プレイヤー同士でカードを交換する要素がかなり重要になります。めちゃ面白いゲーム。おすすめです
応募作『ちんパラ!』
賃貸といえば、お部屋探しのサイトで必ずある、「洋室」とか「風呂トイレ別」とかいった「こだわり条件」をカードにして、それでお客さんと契約することをゲームにできるな、と考えました。
そしてまとめた「ちんパラ!」では、場に出ているお客さんカードの希望条件に合うカードを揃えて得点化するという「チームプレー」の遊び方の流れは踏まえつつ、その状態に段階をつけることが大きなアイデアのひとつでした。
完全に得点化された「本契約」に至る前の「仮契約」という状況を設けました。これにより、得点を具体的に奪い合う状況を発生させることにしたのです。先手プレイヤーの手札の運や先行優位だけでなく、後続プレイヤーに、先手から得点を奪うべきか?別の得点化を目指すべきか?といった判断ができるようにしてもらう余地を強く残そうと考えました。
また、手札に2通りの属性を持たせて、1枚の手札をどちらの属性カードとして消費するかという選択肢に幅を持たせようと考えました。
そして「チームプレー」的なチーム要素はどう組み込んでもチームプレーになっちゃいそうなので、不採用にしました。
ゲームタイトルは「賃貸パラダイス」、略して「ちんぱら」です。受付の期限が迫っていたので、かなり適当に決めました。
応募
そうしてどうにかこうにか受付期限ギリギリに応募した『ちんパラ!』。
しかしコンテスト自体は、二次募集と称して期限が伸びたのでズッコケましたが、まあもう応募しちゃったからいいやと思って忘れて、しばらく過ごしました。
で、何ヶ月か経って一次選考の発表があって、名前が上がってなかったので、なるほど、と思いました。
結果発表後、応募時に提出したテストプレイキットは、ディアシュピールというショップさんで回収できるということだったので、せっかくだからと思って回収させてもらいました。
で、手元に戻ってきたので、ひさしぶりにこのゲームのことを考えました。
課題
応募時には、審査に当たるであろうスポンサー様を勝手に想定して勝手に遠慮したため、意図的に含まなかった要素がありました。
それは、「事故物件」や「変な間取り」といった、不動産屋さんにとってネガティブぽい要素。
でもネガティブな要素って、ゲーム的にはおいしいことがたくさんありますよね。おもしろいゲームを目指すなら、避けるべきではなかったね?
あとは、遊びやすさの問題。カードに2属性あるのは、どうやっても情報が増え過ぎて見落としがあるし、場に置いたときと手に持ったとき、どちらの場面を優先するかで、もう片方のときの便利さが犠牲になったりしちゃう。うまくやれる方法はきっとたくさんあると思いますが、すくなくとも応募の状態では非常に不便だった。
それから、「仮契約」がそんなに効果的でなかったこと。だって仮契約するかどうかの段階で、ある程度の選択が済んじゃってるから、狙ってれば奪いに行くし、狙ってなければ放っておくだけだよな、って思った。それよりその時々の手札と場札による制限のほうが、選択肢に影響を与えていそうだった。考えてみれば当たり前のことだけど。
それに、タイトルもダサいし!
そんなわけで、落選すべくして落選したなあと思ったのでした。
アップデート
まだ世に出ていない、完成してないゲームについては、ときどき思い出しては考えちゃう性癖がある私。特に強い気持ちがあったわけではないですが、「ちんぱら」についても考え続けていました。
まず、手札には1通りの使い方しか書かないほうが良い。一方で、ゲームにネガティブな要素を加えるなら、ゲーム内で扱われる「価値」みたいなものは、1にしぼらなくてもよい。
それから、お客さんを奪い合うなら、相手の強さがわかってると仕掛ける前に諦めちゃうから、勝負まで伏せて置いたほうがやる気を失わないかもしれないね。なんなら、ブラフで勝負して弱いままで勝つ!みたいなのができると気分が良いはずだ。
事故物件を含めたお部屋の要素を整理するために、賃貸物件が検索できるサイトで、どんなこだわり条件のお部屋があるか。数や割合はざっくりどんなもんだろうか。
不動産屋の友達から、最近の流行りについて意見が聞けるかも知れないな。
あ、でもこれ地方じゃぜんぜん状況が変わるだろうから、東京の話に限らないと体感が全然変わっちゃうよな~、どうしよっかな。
などなど!
そうして「ちんぱら」は以前とずいぶん違う形に変化してきました。
イベントに向けて
季節が巡って、2018年の初夏くらいでしょうか。
そろそろ秋のイベントの準備が迫ってきていたので、いくつか制作する候補を考えてました。その中には、もはや原型からはずいぶん様変わりをした「ちんぱら」もありました。
テストプレイできるのって、すごくありがたいんですよ。だってゲームになってないゲームを覚悟の上で遊んでもらえるんですからね!
でも私は、あんまり人の話は聞かないんです。だって未完成のものに意見をもらっても役に立たないじゃないですか?
じゃあテストする意味ないじゃん!とはならなくて、想定してるように動くか、想定外のことはなにか、みたいなことは、自分だけでは確認できないことばかり。だから自分の知りたいことを明らかにするため、やっぱりテストプレイはすごく大事。
で、機会があってテストプレイをさせてもらったところ、自分としては、かなり可能性を感じた。以前よりもずいぶんゲームらしくなりそうな気がしました。
もはや別のゲームとは言え、すでに一度ボードゲームグランプリで落ちてるゲームですから、自分の中でこれ以上は制作の旬を逃したくないな、という気持ちもあったので、秋のイベントは「ちんぱら」を仕上げることに決めました。
発表前の試行錯誤
テストプレイ用のキットを2回くらい大幅に作り直して、またテストして、もうこれでほぼ決定、みたいな気分になってから、9月くらいにこのブログの共同執筆者でもあるまことさんに久しぶりに、テストしてもらう機会がありました。
そしたらなんと「地獄…」みたいな顔されました。
「やべーっ!!」って思ったのよく覚えてます。今回の制作で一番、収穫があったな~と思うのはこのときのテストの印象とその対処の部分ですね。
この「やべーっ」て気持ちで、かなり状態を見直したり、ゲームの細部をいじっては味を確かめたり1ヶ月くらい行いました。
そして結局、ゲーム内容はほとんど変えないことにしました。いくつか提案してもらったことはいちおう一通り試したものの、全部採用しないことにしました。
その代わりに、本来伝えたかった情報の見せ方を、すごくすごく意図的に整理することができました。
まことさんとのテストプレイのおかげで、このゲームで何を体験してもらうつもりかというズレが、起きにくいように配慮することができたのです。
びっくり大好評
とにかく調整をギリギリまで終えられなかったので、事前予約も取れず、完成品の写真が撮れたのもイベント数日前でしたが、なんとか当日にむけ、部材の制作発注を終えることができました。
自作ボードゲームは、部品ごとにばらばらの業者さんに作ってもらったものを、自分で組み立てる事が多いんですよ~。箱はA社さん、カードはB社さん、説明書はCのお店で刷ってもらおう。みたいな感じ。
そしてこの組み立てる作業のことを「丁合い」とか「アセンブル」とか呼びます。
ただ、今作は過去最高にカードが多かった。だから120枚を1セットに仕上げたりする作業は、なかなか膨大でしたね~。
みなさんもゲームを作るなら、カードは少ない方がいいですよ、ほんとにほんとに。
さて、そしてようやく迎えたイベント当日!
想像を遥かに上回る数の方に手にとってもらえて、うれしかったな~。ツイッターなどで感想もたくさん書いていただけたりして。しばらく最高の気分で過ごしました。
そうそう、「地獄…」みたいな顔をされてから2ヶ月くらい経った後、まことさんに完成版でもう一度遊んでもらう機会がありました。そのときは「遊びやすくなった」「印象ぜんぜん違う」と言ってもらえたので、すごくよかったです。
もう発表しちゃった後なので、気を使ってくれただけかも知れないですけど…。
実際のゲームの内容はぜんぜん変わってないんですけど、完成品に施したアートワークなどの調整が、うまく行ったのだな。と思うことができました。
再販開始しました!
なんと最初に作った分が、すぐにぜんぶ手元からなくなっちゃったので!!再生産に着手しました!!!
急遽再生産を決めたんですけど、年末年始に入っちゃったため、年をまたいで今週からようやく、秋葉原のお店などに再入荷していただいたりしています。
イエローサブマリンさんの各店や、秋葉原ロールアンドロールステーションさん、ホビーステーション各店で取扱って頂いているので、ぜひお手にとって頂けたらうれしいです。
最寄りのお店になさそうだったら、ロールアンドロールステーションさんの通販もあるから、そちらもご検討くださいね。
東京アルティメット賃貸 | ロールアンドロールステーション通販店
最新版のあそびかた説明書は、こちらから読めますよ。
【取説】東京アルティメット賃貸4.0.pdf - Google ドライブ
制作の過程の話をしていたらすっかり長文になっちゃったので、ゲームの具体的な仕様やこだわりポイントなどの話は、またの機会があればということにします。
読んでくれてありがとう!
この記事を書いたのは、なかよし(東京なかよしデザイン)